アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、私たちのクリニックでも日常的に多くの患者さんが相談に来られる疾患の一つです。最近はインターネットの情報があふれている一方で、中には専門家として見ると少し不正確だったり、言葉の選び方が適切でなかったりする情報も目にします。特にアトピー性皮膚炎のような長く付き合う必要のある病気については、正確な知識と適切な治療が不可欠です。
アトピー性皮膚炎は、増悪と軽快を繰り返す、かゆみのある湿疹を主病変とする疾患です(1)。世界的に見てもその有病率は高く、多くの人々がこの病気に悩んでいます(5)。今回は日々の診療ではなかなか伝えきれないアトピー性皮膚炎について、その特徴や治療のポイント、そして最新の治療まで私の考えを交えながらお話ししたいと思います。
アトピー性皮膚炎とはどのような病気なのか
アトピー性皮膚炎の患者さんの多くは、「アトピー素因」を持っています。これは、気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患の家族歴や既往歴があること、あるいはIgE抗体を産生しやすい体質を指します(1)。
この病気は、遺伝的な体質だけでなく、皮膚のバリア機能の脆弱性(もともとの皮膚の弱さですね)や、それによって引き起こされる皮膚の過敏さが複雑に絡み合って発症すると考えられています(1)。健康な皮膚の表面にある角層は、体液の漏出を防ぎ、水分の保持、そして外部からの刺激や病原体の侵入を防ぐバリアの役割を果たしています。アトピー性皮膚炎では、このバリア機能がうまく働かないために、アレルゲンが侵入しやすくなったり、刺激に対して過敏になったりします。
かゆみは、アトピー性皮膚炎の主要な症状の一つで、患者さんの生活の質を大きく低下させます。かゆいから掻く、掻くから皮膚が傷つく、傷ついた皮膚からさらに炎症物質(サイトカインなど)が放出されて、またかゆくなる…という悪循環に陥りやすいのが特徴です(1)。ヒスタミンだけでなく、インターロイキン31(IL-31)といった物質もかゆみに深く関わることが分かってきています(1)。
乳児期から発症し、成長とともに症状が軽快する方もいますが、一部は成人期まで症状が続くことがあります。また、思春期以降に初めて発症するアトピー性皮膚炎の患者さんもいらっしゃいます(1)。
診断と重症度
診断は、主に以下の3つの基本項目を総合的に見て行います(1)。
- 掻痒(かゆみ)
- 特徴的な皮疹(湿疹)と分布
- 慢性・反復性の経過(乳児では2カ月以上、その他では6カ月以上)
皮疹の現れ方や好発部位は年齢によって少しずつ変わります。乳児期は顔や頭に始まり、次第に体幹や四肢に広がります。幼児期から学童期にかけては首や肘、膝の裏といった関節部に病変が目立つようになります。思春期以降は、顔、首、胸、背中など上半身に強く皮疹が出やすい傾向がある、とされています(1)。
治療の基本的な考え方とアプローチ
アトピー性皮膚炎の治療目標は、症状がほとんどないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法も過度には必要としない状態を維持することです(1)。「病気を完治させる」というよりも、「症状をしっかりコントロールし、良い状態を長く保つ」というイメージが近いかもしれません。
治療は、大きく分けて薬物療法とスキンケア、そして悪化因子の対策の3つを柱に進めていきます。
1. 適切なスキンケアの継続
アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は、炎症がある部位だけでなく、一見正常に見える部分も乾燥しやすく、バリア機能が低下していることが多いのです(1)。日々のスキンケアは、薬物療法と同じくらい重要です。
- 保湿外用薬(保湿剤):皮膚の水分量を保ち、バリア機能を補強します。乾燥やかゆみを軽減し、アレルゲンの侵入や炎症の再燃を防ぐ効果が期待できます(1) (CQ24)。塗る量は「フィンガーチップユニット(FTU)」を目安にするのが分かりやすいでしょう。これは、人差し指の先端から第一関節まで出した量で、おおよそ大人の手のひら2枚分に塗れる量とされています(1)。入浴後など1日2回塗ることが、より高い保湿効果につながります(1)。
- 入浴・シャワー浴と洗浄:皮膚を清潔に保つことは、皮脂汚れや汗、雑菌などを洗い流し、皮膚の機能を維持するために不可欠です(1) (CQ26)。湯温は38〜40℃が適度でしょう。石鹸や洗浄剤を使う際は、低刺激性で添加物が少ないものを選び、よく泡立てて優しく洗い、十分に洗い流すことが大切です(1) (CQ27)。
さらに意外かもしれませんが、新生児期からの保湿剤使用によるアトピー性皮膚炎の発症予防については、現時点では「一概には推奨できない」とされています(1) (CQ25)。様々な研究結果がありまだ結論が出ていない段階だ、ということです。
2. 薬物療法:炎症とかゆみを抑える
現在、アトピー性皮膚炎の薬物療法には、様々な選択肢があります。
- ステロイド外用薬:アトピー性皮膚炎治療の基本となる薬です。炎症を強力に抑え、かゆみを速やかに軽減します(1) (CQ4)。「ステロイドは怖い」というイメージを持たれている方もいらっしゃいますが、適切なランクの薬を、適切な量を、適切な期間使用すれば、副作用を抑えつつ高い効果を得ることができます。当院でも、患者さんの不安を解消できるよう、丁寧な説明と指導を心がけています。炎症が落ち着いたら、急にやめるのではなく、プロアクティブ療法といって、保湿剤を使いながら週に数回ステロイドを塗ることで、良い状態を維持する方法もあります(1) (CQ11)。
- タクロリムス軟膏(プロトピック®軟膏)、デルゴシチニブ軟膏(コレクチム®軟膏)、ジファミラスト軟膏(モイゼルト®軟膏):これらはステロイドとは異なる作用機序で炎症を抑える抗炎症外用薬です(1)。それぞれ使用できる年齢や部位、注意点が異なりますが、特に顔面や頸部の皮疹、あるいはステロイド外用薬の副作用が気になる部位などに有効な選択肢です(1) (CQ7, CQ9, CQ10)。タクロリムス軟膏の発がんリスクについては、これまでの研究で「高めるとはいえない」という結果が出ています(1) (CQ8)。デルゴシチニブ軟膏とジファミラスト軟膏は、乳幼児にも使用できるようになった新しい外用薬で、治療の選択肢が広がったことを嬉しく思います(1)。
- 内服薬:
- シクロスポリン:既存治療で効果が不十分な重症のアトピー性皮膚炎の患者さんに考慮される免疫抑制剤です。速やかにかゆみを抑える効果が期待できますが、腎機能障害や高血圧などの副作用に注意するため、定期的な検査が必要です(1) (CQ12)。
- ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害内服薬(バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ):これらは比較的新しい内服薬で、炎症を引き起こすサイトカインのシグナル伝達を阻害することで効果を発揮します(1, 2) (CQ13, CQ14, CQ15)。外用療法で改善が難しい中等症から重症の成人患者さん、一部は青少年にも使えます。効果が高い一方で、感染症や血栓症などの副作用にも注意が必要で、使用には厚生労働省が定める「最適使用推進ガイドライン」を遵守する必要があります(1, 2)。当院でも、これらの薬剤を安全かつ効果的に使用するための体制を整えています。
- 抗ヒスタミン薬:かゆみを軽減する目的で、外用薬の補助療法として使用されることがあります。非鎮静性の第二世代抗ヒスタミン薬が選択されることが多いです(1) (CQ19)。
- 紫外線療法:
-ナローバンドUVB:適切な外用療法でも改善しない中等症以上の患者さんに考慮される治療法です(1) (CQ23)。皮膚の免疫に作用して炎症を抑える効果が期待できますが、皮膚がんなどの長期的な副作用にも注意が必要で、専門医の管理下で行うことが重要です。
注射薬:
- 生物学的製剤(デュピルマブ、ネモリズマブ、トラロキヌマブ):炎症経路の特定の分子を標的とする注射薬です。外用療法で寛解導入が難しい中等症から重症のアトピー性皮膚炎に高い効果が期待できます(1) (CQ16, CQ17, CQ18)。デュピルマブは炎症とバリア機能の改善に、ネモリズマブは特に強いかゆみに、トラロキヌマブは炎症と痒みに効果を発揮します。自己注射も可能で、患者さんの負担軽減にもつながります。ただし、結膜炎や注射部位反応などの副作用に注意が必要です(1)。
3. 悪化因子の対策
日常生活の中には、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる様々な要因が潜んでいます。
- 非特異的刺激:汗、髪の毛の接触、衣類との摩擦などが症状を悪化させることがあります(1)。汗はこまめに拭き取ったり、シャワーで洗い流したりすることが大切です。衣類は肌触りの良い綿素材などを選び、爪は短く切って皮膚を傷つけないように心がけましょう。
- アレルゲン:ダニや花粉、ペットの毛などの吸入アレルゲンや、特定の食物アレルゲンが症状を悪化させることがあります(1)。ただし、アレルゲンに感作しているからといって、必ずしもそれが症状悪化の原因であるとは限りません。ダニ抗原除去については、問診や血液検査からダニが原因と疑われる場合に、寝具の掃除や換気などの対策を行うと良いでしょう(1) (CQ30)。しかし、アレルゲン免疫療法がアトピー性皮膚炎の症状改善に有効であるという明確なエビデンスはまだ不足しています(7)。
また、乳児のアトピー性皮膚炎において、アレルゲン除去食がすべての場合に有用であるという根拠は乏しく、不適切な除去食は栄養障害のリスクを高める可能性があります。妊娠中・授乳中の母親の食事制限も、児のアトピー性皮膚炎発症予防には有用ではないとされています(1) (CQ28, CQ29)。
- 細菌・真菌:黄色ブドウ球菌などの細菌や真菌が皮膚で増殖し、炎症を悪化させることがあります(1)。感染が疑われる場合は適切な治療が必要ですが、感染徴候のないアトピー性皮膚炎に対して抗菌薬の内服を推奨するエビデンスは乏しいです(1) (CQ32)。
- 日焼け:過度な紫外線曝露は皮膚のバリア機能を低下させ、アトピー性皮膚炎を悪化させる可能性があります。紫外線が強い時期には、紫外線吸収剤を含まない日焼け止めの使用も考慮すると良いでしょう(1) (CQ36)。
その他、漢方療法は補助療法として考慮されることがありますが、科学的なエビデンスは限定的です(1) (CQ20)。また、プロバイオティクスやプレバイオティクスによるアトピー性皮膚炎の発症予防や症状改善については、現時点では一律に推奨できる段階にはありません(1) (CQ37, CQ38)。
小児のアトピー性皮膚炎について
小児のアトピー性皮膚炎は、成長とともに症状が変化し、多くの場合は年齢とともに寛解することが期待できます(1) (CQ1)。しかし、重症度が高い場合や食物アレルギーを合併している場合などは、症状が長く続く傾向があることも分かっています(1)。
小児の治療では、親御さんをはじめとする養育者の方々との連携が非常に重要です。特に乳幼児期は、養育者の方が治療の主体となるため、病気や治療法を正しく理解していただくための患者教育が欠かせません。思春期になると、治療の主体が本人へと移っていくため、お子さん自身の病気への理解と、自主的な治療への取り組みを促していくことが大切になります(1)。
残念なことに、重症のアトピー性皮膚炎が不適切な治療により悪化し、命に関わるケースも報告されています。特に乳幼児期では、医療ネグレクトや合併症によって重症化し、死亡に至る可能性がゼロではないことを理解しておく必要があります(1)。適切な医療を継続することは、症状の改善だけでなく、合併症のリスクを減らし、生命を守るためにも非常に重要なのです。
まとめ
①アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能障害や免疫の異常、そして様々な環境要因が複雑に絡み合って発症する病気です。
②治療の選択肢は近年大きく広がり、外用薬から内服薬、注射薬まで多様な薬剤が使えるようになりました。特に新しい治療薬(JAK阻害薬や生物学的製剤)の登場により、これまで治療が難しかった中等症から重症のアトピー性皮膚炎も、症状をコントロールできるようになってきています(3, 4)。
③適切な診断と重症度評価に基づいた個別化された治療計画、日々の丁寧なスキンケア、そして悪化因子への対策を継続することが、症状を安定させ、生活の質を高めるためには不可欠です。
アトピー性皮膚炎の治療は長期にわたることが多いからこそ、患者さん一人ひとりのライフスタイルや悩みに寄り添い、共に最適な道を探していくことが大切だと私は考えています。
美しく健康な肌は、日々のケアと適切な医療の上に築かれます。肌のことで悩むすべての変化に対し、誠実に向き合い、皆さんの生活がより豊かになるよう、これからも全力を尽くしてまいります。
参考文献
(1) 「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024年版」日本皮膚科学会. 2024.
(2) 「アトピー性皮膚炎におけるヤヌスキナーゼ(JAK)阻害内服薬の使用ガイダンス」日本皮膚科学会.
(3) Drucker AM, Lam M, Prieto-Merino D et al. "Systemic Immunomodulatory Treatments for Atopic Dermatitis: Living Systematic Review and Network Meta-Analysis Update.." JAMA dermatology. 2024. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39018058/
(4) Chu AWL, Wong MM, Rayner DG et al. "Systemic treatments for atopic dermatitis (eczema): Systematic review and network meta-analysis of randomized trials.." The Journal of allergy and clinical immunology. 2023. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37678577/
(5) Tian J, Zhang D, Yang Y et al. "Global epidemiology of atopic dermatitis: a comprehensive systematic analysis and modelling study.." The British journal of dermatology. 2023. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37705227/
(6) Chu DK, Chu AWL, Rayner DG et al. "Topical treatments for atopic dermatitis (eczema): Systematic review and network meta-analysis of randomized trials.." The Journal of allergy and clinical immunology. 2023. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37678572/
(7) Yepes-Nuñez JJ, Guyatt GH, Gómez-Escobar LG et al. "Allergen immunotherapy for atopic dermatitis: Systematic review and meta-analysis of benefits and harms.." The Journal of allergy and clinical immunology. 2023. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36191689/
- 執筆:増田泰之(皮膚科専門医)
- 武庫之荘ますだ皮膚科・美容皮膚科クリニック 院長
