原発性腋窩多汗症
原発性腋窩多汗症という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは、季節を問わず日常生活に大きな影響を与える皮膚の疾患です。
春~夏にかけて特に多くなりますが、冬は冬で着込んだり暖かい空間にいることが多くなるため悩んでいる方はいらっしゃいます。
残念ながらインターネット上には断片的な情報も多く、正しい理解や適切な治療法を知る機会が少ないように感じます。しかし、原発性腋窩多汗症は適切な治療によって症状を大幅に改善できるものです。
原発性腋窩多汗症とはどのような疾患か
原発性腋窩多汗症は、温熱や精神的な負荷、またはそれらによらずに腋窩に大量の発汗がおこり、日常生活に支障をきたす状態を指します (1)。体の他の部位の発汗とは異なり、精神的な緊張やストレスが発汗を誘発することが多く、時に持続的に発汗が続くことがあります。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、原発性局所多汗症の診断基準として、局所的に過剰な発汗が明らかな原因なく6ヶ月以上認められ、以下の6項目のうち2項目以上に該当する場合を多汗症と診断します (1)。
- 最初に症状が出るのが25歳以下であること
- 対称性に発汗がみられること
- 睡眠中は発汗が止まっていること
- 1週間に1回以上多汗のエピソードがあること
- 家族歴がみられること
- それらによって日常生活に支障をきたすこと
患者さんの多くは制汗剤ではどうにもならないほどの汗で悩んでいます。シャツの汗染みが気になり、好きな服を着られない。人前で腕を上げるのが恥ずかしい。握手をするのがためらわれる。このような理由から、仕事や学業、社会生活、そして心理的な面にも大きな影響が出ているケースもあるようです (1, 3)。日本国内の有病率は5.75%と報告されています しかし実際に医療機関を受診している方は非常に少ないとされています。汗をかくことで、不安障害やうつ傾向がみられるという報告も存在します 。
治療の選択肢と当院の考え方
原発性腋窩多汗症の治療は、患者さんご自身の困り具合によって治療方針が変わります。日本皮膚科学会のガイドライン でも、患者さんにとって侵襲が少なく費用負担が少ないものから段階的に治療を進めることが推奨されています。
1. 外用療法
外用薬は、体の外から作用させるため、全身への影響が少ない点がメリットです。
塩化アルミニウム外用療法
塩化アルミニウム液は、汗腺の導管(汗の通り道)を閉塞させることで発汗を抑える治療法です。まず試すことの多い治療の一つと言えます 。就寝前に塗布し、翌朝洗い流すのが一般的です。効果が表れるまで毎日続ける必要があります。濃度や基剤の種類によっては、刺激性接触皮膚炎を生じる可能性があるので注意が必要です 。数年前までは院内製剤しかありませんでしたが、最近パースピレックスという名称の製品が市販されるようになりました。
当院では、市販の制汗剤で効果が不十分な方に、塩化アルミニウム液(パースピレックス)をご案内しています。
外用抗コリン薬
近年、保険適用となった外用抗コリン薬があります。これは、汗腺にあるアセチルコリン受容体を阻害し、発汗を抑制する作用を持っています。グリコピロニウムトシル酸塩水和物含有のワイプ剤やソフピロニウム臭化物ゲルといった種類があります 。
複数の臨床研究で、外用抗コリン薬が原発性腋窩多汗症に有効であることが示されています。例えば、日本人患者を対象としたランダム化比較試験では、グリコピロニウムトシル酸塩水和物含有ワイプ剤(3.75%および2.5%)を4週間使用した結果、HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)スコアの改善率と50%以上の発汗量減少率が、プラセボ群と比較して統計学的に有意に改善したと報告されています (8)。患者さんのQOL(生活の質)も改善することが確認されています (3, 8)。
副作用として口渇、散瞳、排尿困難など、抗コリン作用による全身性の症状が報告されています。しかし、外用であるため、内服薬に比べて全身性の副作用のリスクは低いと考えられています (3, 8)。塗布後に手を十分に洗うなど、正しい使い方を守ることで、副作用のリスクをさらに減らすことが可能です (3)。
2. イオントフォレーシス療法
水道水に手足を浸し、微弱な電流を流すことで発汗を抑制する治療法です。主に手足の多汗症に有効性が確立されていますが、腋窩多汗症に対しても考慮しても良い治療法とされています 。治療効果の持続には定期的な通電が必要になり、実際の治療ではこの点がネックとなります。当院では、現時点では腋窩多汗症へのイオントフォレーシスは導入していません。
3. ボツリヌス毒素局所注射
A型ボツリヌス菌毒素を直接腋窩に注射することで、発汗に関わる神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を一時的にブロックし、汗の分泌を抑えます。
効果は数日間で現れ始め、通常4〜9ヶ月程度持続します。効果が切れると再度注射が必要になりますが、繰り返しの治療で効果の持続期間が延びる可能性も示唆されています。
複数のメタアナリシス(質の高い研究をまとめた解析)で、A型ボツリヌス毒素注射がプラセボと比較して発汗量を大幅に減少させ、HDSSスコアやDLQI(Dermatology Life Quality Index)といったQOL指標を改善する上で優れていることが示されています (4, 6)。他の治療法(マイクロ波療法、イオントフォレーシス、A型以外のボツリヌス毒素、塩化アルミニウム外用、ダイオードレーザーなど)と比較しても、同等の有効性があり、副作用の発生率もプラセボと同程度か、他の治療よりも少ないという報告もあります (4)。主な副作用としては注射時の疼痛が挙げられます 。
当院では、脇の多汗症に対し、ボツリヌス毒素注射(保険適用外)が可能です。
4. 内服薬
抗コリン薬(プロ・バンサインなど)や、塩酸クロニジン、トフィソパムといった薬剤が多汗症治療に用いられることがあります (1)。これらは汗の分泌を抑える効果が期待できますが、口渇、便秘、かすみ目、排尿困難といった抗コリン作用による全身性の副作用が生じる可能性があります 。特に高齢者では、長期的な服用が認知機能低下のリスクを高める可能性が指摘されており (1)、若年者に対しても長期的な服用は慎重に検討すべきであると考えます。
5. 機器による治療
最近ではマイクロ波、高密度焦点式超音波(HIFU)、レーザー、フラクショナルマイクロニードル高周波など、様々な機器を用いた治療法が登場しています (1)。これらの治療は、熱エネルギーを用いて汗腺を変性・凝固させることで、発汗を抑制します。
マイクロ波治療器は、腋窩多汗症に対する有効性と安全性が報告されており、ボツリヌス毒素注射に匹敵する効果が期待できるという見解もあります (7)。マイクロ波は水分子に吸収されやすい特性を利用し、汗腺をターゲットに加熱することで発汗を抑制します。当院ではマイクロ波治療は現時点では導入していません。
Nd:YAGレーザーやダイオードレーザーといったレーザー治療も、一部の文献で多汗症治療への有効性が示唆されています (5)。これらの機器は保険適用外の自由診療となります。
6. 外科的治療
胸腔鏡下交感神経遮断術(ETS)や、腋臭症に準じた汗腺除去手術などがあります (1)。これらの治療は根治的な効果が期待できるものの、特に胸腔鏡下交感神経遮断術では、手術部位以外の部分から汗が出るようになる「代償性発汗」という重篤な副作用が高頻度で発生し、その治療が困難となることが多く私は推奨していません。
7. 精神(心理)療法
多汗症の精神的ストレスとの関連から、催眠療法、バイオフィードバック療法、自律訓練法といった精神(心理)療法が試みられることもあります (1)。しかし、現時点では、これらの治療法の有効性を示す質の高いエビデンスは不足しています。あくまで補助的な役割と考えるのが現実的です。
ご自宅でのセルフケアと注意点
日々の生活の中で汗の悩みを軽減するためには、いくつかのセルフケアも有効です。
- 清潔を保つ: 汗をかいたらこまめに拭き取り、シャワーを浴びるなどして、皮膚を清潔に保つことが大切です。
- 衣類の素材選び: 吸湿性・速乾性に優れた素材や、通気性の良い服を選ぶことで、汗による不快感を軽減できます。
- ストレスマネジメント: ストレスは発汗を誘発する大きな要因です。適度な運動、十分な睡眠、リラックスできる時間を作るなど、ストレスを上手に管理することも大切です。
- 市販の制汗剤の活用: 多くの市販制汗剤がありますが、当院では塩化アルミニウム水溶液である「パースピレックス」も取り扱っています。
まとめ
原発性腋窩多汗症は、決して珍しい疾患ではありません。多くの人が「体質だから」と諦め、一人で悩みを抱えがちですが様々な治療法が存在します。
1. 原発性腋窩多汗症は、日常生活に大きな支障をきたす慢性疾患ですが、適切な医療介入によって症状は改善できます。
2. 治療法は、外用薬、イオントフォレーシス、ボツリヌス毒素注射、内服薬、機器による治療、外科的治療など多岐にわたります。患者さんの状態や希望に合わせて、段階的に治療を選択することが重要です。
3. 特に、外用抗コリン薬やボツリヌス毒素注射は、近年エビデンスレベルの高い研究によってその有効性と安全性が確認されており、QOLの改善にも大きく寄与します。
汗の悩みも、皮膚科専門医にご相談いただければと思います。
参考文献
(1) 「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」日本皮膚科学会. 2023.
(2) 「美容医療診療指針」日本皮膚科学会.
(3) Elrosasy A, Zeid MA, Samha R et al. "Efficacy and safety of topical glycopyrronium bromide in treating axillary hyperhidrosis: systematic review and meta-analysis.." Scientific reports 2024;14(1):24537. doi:10.1038/s41598-024-74430-4 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39424822/
(4) Sun J, Chen S, Yang T et al. "Efficacy and Safety of Botulinum Toxin Type A in Primary Axillary Hyperhidrosis: A Meta-analysis and Systematic Review.." Aesthetic plastic surgery 2025;49(17):4932-4940. doi:10.1007/s00266-025-04909-6 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40500510/
(5) Cervantes J, Perper M, Eber AE et al. "Laser treatment of primary axillary hyperhidrosis: a review of the literature.." Lasers in medical science 2018;33(3):675-681. doi:10.1007/s10103-017-2434-0 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29322402/
(6) Obed D, Salim M, Bingoel AS et al. "Botulinum Toxin Versus Placebo: A Meta-Analysis of Treatment and Quality-of-life Outcomes for Hyperhidrosis.." Aesthetic plastic surgery 2021;45(4):1783-1791. doi:10.1007/s00266-021-02140-7 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33619611/
(7) Nasr MW, Jabbour SF, Haber RN et al. "Comparison of microwave ablation, botulinum toxin injection, and liposuction-curettage in the treatment of axillary hyperhidrosis: A systematic review.." Journal of cosmetic and laser therapy : official publication of the European Society for Laser Dermatology 2017;19(1):36-42. doi:10.1080/14764172.2016.1248438 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27782761/
(8) Yokozeki H, Fujimoto T, Wanatabe S et al. "Topical glycopyrronium tosylate in Japanese patients with primary axillary hyperhidrosis: A randomized, double-blind, vehicle-controlled study.." The Journal of dermatology 2022;49(1):86-94. doi:10.1111/1346-8138.16188 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34636057/
- 執筆:増田泰之(皮膚科専門医)
- 武庫之荘ますだ皮膚科・美容皮膚科クリニック 院長
