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肝斑について

肝斑は、顔の左右対称性に現れる境界がやや不明瞭な茶褐色の色素斑を特徴とする皮膚の疾患です。特に頬骨の上、額、鼻の下、口の周りなどの部位に多く見られ、成人女性に好発すると考えられています。Fitzpatrick phototype III-Vの、いわゆる有色人種に多く認められる症状の一つです。

肝斑とはどのような症状か

肝斑の発生には、さまざまな要因が複雑に絡み合っているとみられます。主な原因として指摘されているのは、慢性的な紫外線曝露、女性ホルモンの変動(妊娠、経口避妊薬の使用など)、摩擦や刺激といった物理的な要因、そして遺伝的背景などが挙げられます。近年では、肝斑が単純な色素沈着症というよりも、皮膚の光老化や真皮の炎症、血管新生などの特徴を併せ持つ複雑な病態であるという認識が深まっています(Lee YS et al., 2022)。これらの要因が複合的に作用し、皮膚のメラノサイト(色素細胞)が過剰に活性化され、メラニン色素が異常に産生・蓄積されることで、特徴的な色素斑が形成されると考えられます。患者さんの生活の質に深刻な影響を与えることも珍しくありません(Neagu N et al., 2022)。

肝斑治療の多様なアプローチ

肝斑の治療は、単一の治療法で完結することは少なく、複数のアプローチを組み合わせることが非常に重要だと皮膚科専門医として考えます。Neagu N et al. (2022)のシステマティックレビューでも、単一治療よりも二重または三重の組み合わせ治療が最良の結果をもたらすことが示されています。治療の目標は、症状の改善だけでなく、再発をいかに防ぐかという点にもあります。

内服治療

肝斑の内服治療では、トラネキサム酸、ビタミンC、L-システインなどが一般的に用いられます。特にトラネキサム酸は、メラニンの生成を抑える作用があり、肝斑治療において強く推奨されている薬剤です。Lee YS et al. (2022)の論文でも、経口トラネキサム酸と低出力QスイッチNd:YAGレーザーの組み合わせ治療が肝斑の改善に有効であることが報告されています。
当院では、内服薬に加え、Target Cool(ターゲットクール)というニードルフリージェットインジェクター(針を使わない注射デバイス)を用いて「トラネキサム酸+ビタミンC」などを皮膚に導入する施術を提供しています。これは、真皮層にトラネキサム酸とビタミンCを届けることで、内側から肝斑へのアプローチを強化する治療法です。施術時間は短く、痛みに配慮した設計のため、注射が苦手な方でも安心して受けられるように工夫しています。この施術は保険適用外です。

外用治療

外用薬は肝斑治療の基本であり、多くの患者さんに処方されます。ハイドロキノンはメラニン生成を抑える効果が非常に高く、肝斑治療の「ゴールドスタンダード」とも言われる成分です。また、トレチノインは肌のターンオーバーを促進し、蓄積されたメラニンを排出する効果が期待できます。アゼライン酸も炎症を抑えながら色素沈着を改善する作用があるとされています。
世界的に標準的な治療とされているのが、ハイドロキノン4%、トレチノイン0.05%、フルオシノロンアセトニド0.01%を組み合わせた、いわゆるKligman’s triple combination(クリグマンのトリプルコンビネーション)です(Lee YS et al., 2022)が、日本ではあまり行われていません。当院では、患者さんの肌質や症状に合わせて、これらの成分を配合した外用薬や、ゼオスキン、ガウディスキン、プラスリストアなどのホームケア製品をご提案しています。これらの製品の中には、トラネキサム酸やビタミンCを配合し、肝斑や色素沈着へのアプローチを目的としたものも多く含まれます。また、ビタミンCの局所適用も肝斑や光老化の改善に有効性が期待できるとされています(Correia G et al., 2023)。

レーザー・光治療

従来のレーザー治療は、炎症を誘発し、メラニン生成を刺激するリスクがあったため、特に有色人種の肝斑には比較的禁忌とされていました(Lee YS et al., 2022)。しかし、2000年代以降、低出力QスイッチNd:YAGレーザー(LFQSNY)、いわゆる「レーザートーニング」が、アジア地域を中心に肝斑治療の新しいゴールドスタンダードとして広く受け入れられるようになったとみられます(Lee YS et al., 2022)。

当院では、ルビーレーザー「Nanostar R(ナノスターアール)」を用いたルビートーニングを肝斑治療の柱の一つとしています。ルビートーニングは、低出力で複数回照射することで、メラノサイトへの熱刺激を最小限に抑えつつ、メラノサイトの過活動を抑制し、メラニン産生を調整していく治療法です。ダウンタイムがほとんどなく、日常生活への影響が少ないため、多忙な方にも受けやすいという利点があります。この治療は保険適用外です。
しかし、低出力とはいえレーザーであるため、不適切な設定や過剰な照射回数は、まだらな色素脱失(mottled hypopigmentation; MH)やリバウンドによる色素沈着悪化のリスクがあることも知っておく必要があります(Lee YS et al., 2022)。特に、過剰な累積レーザーエネルギーの使用がMHのリスク因子であるとされています。皮膚科専門医として、患者さんの肌状態を慎重に評価し、最適なプロトコルで治療を進めることが非常に重要だと考えます。MHは治療後の大きな懸念事項であり、発生した場合は回復に2〜3年かかることも、あるいはそれ以上長く持続することもあると報告されています(Lee YS et al., 2022)。当院では、このリスクを十分に理解した上で、適切な出力設定と間隔を考慮した治療を行っています。

最近では、ピコ秒レーザー(PSNY)も肝斑治療の選択肢として登場していますが、現時点では低出力QスイッチNd:YAGレーザーと比較して著しい優位性は確認されていません(Lee YS et al., 2022; Feng J et al., 2023)。また、IPL(光治療)も肝斑に有効であるとされますが、単独よりもレーザートーニングと組み合わせることでより高い効果が期待できるという報告もあります(Lee YS et al., 2022)。全体として、レーザーや光治療は単独で行うよりも、他の治療法と組み合わせることで、効果を最大限に引き出し、色素脱失などの副作用のリスクを軽減できる傾向にあると考えられます(Lee YS et al., 2022; Lai D et al., 2022)。

ケミカルピーリング

ケミカルピーリングは、酸性の薬剤を皮膚に塗布することで古い角質を除去し、肌のターンオーバーを促進する治療法です。グリコール酸、ジェスナー液、サリチル酸マクロゴールなどを用いたピーリングが肝斑治療に応用されることがあります。ピーリング単独でも効果はありますが、レーザートーニングとの併用で、より高い効果が得られる可能性も示唆されています(Lee YS et al., 2022)。当院では、サリチル酸マクロゴールピーリングを組み合わせ治療の一部として提供しています。

エレクトロポレーション

CLEAN&BLOOM(クリーン&ブルーム)によるエレクトロポレーション(電気穿孔法)は、特殊な電気パルスで一時的に皮膚に微細な隙間を作り、美容成分を深部まで浸透させる治療です。当院では、「エレクトロポレーション しみ・くすみ・肝斑ケア」として、トラネキサム酸(TXA)、ビタミンC(VC)、ヒアルロン酸(HA)を導入するコースをご用意しています。レーザー治療と組み合わせることで、相乗効果が期待できます。この施術も保険適用外です。

マイクロニードリング

マイクロニードリングは、微細な針で皮膚に小さな穴を開け、創傷治癒の過程で皮膚の再生を促す治療です。外用薬と併用することで、外用薬の浸透を促進し、肝斑の改善に有効性を示す可能性が報告されています(Bailey AJM et al., 2022)。ただし、当院では現在、マイクロニードリング単独での肝斑治療は積極的に行っておりません。マイクロニードリングによって誘発される炎症が肝斑を悪化させる可能性も考慮する必要があるためです。

当院での肝斑治療アプローチ

皮膚科専門医として、肝斑治療においては患者さん一人ひとりの肌質、症状の程度、ライフスタイルを総合的に評価し、最適な治療プランを提案することを重視しています。多くの場合、複数の治療を組み合わせることで、より良い結果を目指します。
例えば、「くすみ・肝斑」でお悩みの方には、以下のような組み合わせ治療をお勧めすることがあります(これらは全て保険適用外です)。

  • ルビートーニング:肝斑のメラノサイトにアプローチし、メラニン産生を調整します。
  • ターゲットクール(プルリアルシルク+スネコスやトラネキサム酸+ビタミンC):肌の根本的な若返りと再生を促し、肝斑が生じにくい肌環境を目指します。
  • エレクトロポレーション :電気的小孔をあけて有効成分の浸透させ、メラノサイトの過活動を抑制します。
  • サリチル酸マクロゴールピーリング:肌のターンオーバーを促進し、メラニンの排出を助けます。

これらの治療を組み合わせることで、様々な角度から肝斑にアプローチし、より効果的な改善と再発予防を目指します。より詳細については、また別の記事で触れていきたいと考えています。

治療における注意点と再発への理解

肝斑は再発しやすい慢性疾患であり、一度改善しても、紫外線対策を怠ったり、ホルモンバランスの変化があったりすると再び現れる可能性があります。そのため、治療中だけでなく、治療後も継続的なケアと日常生活での注意が不可欠です。

  • 紫外線対策:日焼け止め(SPF30以上、PA+++以上)、帽子、日傘の着用は必須です。紫外線は肝斑を悪化させる最大の要因の一つだと考えられます。
  • 摩擦刺激を避ける:洗顔時やスキンケア時に肌を強くこすらないよう注意が必要です。物理的な刺激も肝斑を悪化させる原因となるでしょう。
  • ライフスタイルの改善:ストレス、睡眠不足も肌状態に影響を与えるため、規則正しい生活を心がけることが大切だと考えます。
  • 妊娠中や授乳中の治療制限:一部の治療(特に内服薬や外用薬、レーザー治療の一部)は、妊娠中や授乳中には推奨されないものも存在します。必ず事前に皮膚科専門医にご相談ください。
  • 色素脱失への理解:レーザー治療により一時的な色素脱失が生じる可能性があり、その回復には時間がかかることを十分に理解しておく必要があります。

まとめ

  1. 肝斑は、紫外線やホルモン、摩擦など多くの要因が複雑に絡み合って生じる慢性的な色素斑であり、その病態は単純な色素沈着にとどまらない複雑さを持つと考えられます。
  2. 治療には、内服薬、外用薬、低出力レーザートーニング、エレクトロポレーション、ケミカルピーリングなどの複数のアプローチを組み合わせることが効果的です。当院ではルビートーニングを軸に、肌育注射やエレクトロポレーションなどを組み合わせたオーダーメイド治療を提案しています。
  3. 肝斑は再発しやすい疾患であるため、治療後の継続的な紫外線対策と肌への刺激を避けるセルフケアが非常に重要だと考えられます。
参考文献

①Lee YS, Lee YJ, Lee JM et al. "The Low-Fluence Q-Switched Nd:YAG Laser Treatment for Melasma: A Systematic Review." Medicina (Kaunas, Lithuania). 2022. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35888655/
②Neagu N, Conforti C, Agozzino M et al. "Melasma treatment: a systematic review." The Journal of dermatological treatment. 2022. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33849384/
③Lai D, Zhou S, Cheng S et al. "Laser therapy in the treatment of melasma: a systematic review and meta-analysis." Lasers in medical science. 2022. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35122202/
④Bailey AJM, Li HO, Tan MG et al. "Microneedling as an adjuvant to topical therapies for melasma: A systematic review and meta-analysis." Journal of the American Academy of Dermatology. 2022. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33857549/
⑤Feng J, Shen S, Song X et al. "Efficacy and safety of picosecond laser for the treatment of melasma: a systematic review and meta-analysis." Lasers in medical science. 2023. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36897459/
⑥Correia G, Magina S. "Efficacy of topical vitamin C in melasma and photoaging: A systematic review." Journal of cosmetic dermatology. 2023. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37128827/
⑦Alghamdi SMH, Baabdullah AM, Bajamaan D et al. "Comparison of The efficacy and safety of fractional erbium: YAG laser in combination with Tranexamic acid delivery by different methods versus Tranexamic acid alone: A systematic review and meta-analysis." Archives of dermatological research. 2025. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40167772/