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くすみについて

前回はシミについて記事を執筆いたしました。
関連して、今回は「くすみ」について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
というのも、患者さんの多くが「肌のくすみ」という言葉を使ってご自身の悩みを表現されることが非常に多いためです。美容に関心の高い方であれば、一度はご自身の肌のくすみが気になったことがあるのではないでしょうか。インターネットで「くすみ」と検索すれば、それこそ山のように情報が出てきます。化粧品やサプリメントの広告、エステサロンの宣伝、あるいは様々な美容情報サイト。しかし、それらの情報には曖昧な表現が多かったり、皮膚科学的な根拠が不明確なものが散見されます。

私としては、日々の診療で皆さんに伝えきれないことを、できるだけ正確にお伝えしたいと考えています。この「くすみ」という言葉には皮膚科学に明確な定義がありません。論文などを読んでいても、dullness(鈍さ、輝きのなさ)やloss of radiance(輝きの喪失)といった表現が使われることはあっても、「くすみ」という単語そのものが専門用語として使われることはありません。それだけに、患者さんが「くすみ」と感じる状態の裏には、様々な皮膚の変化が隠れている可能性が高いのです。

私は美容医療も皮膚科学の延長にあるものと考えていますので、この曖昧な「くすみ」という言葉を、皮膚科学的な視点から紐解き、皆さんの悩みの正体と、その解決策についてお話ししたいと思います。

先ほども触れましたが、「くすみ」という言葉は、皮膚科医が診断名として使うことはありません。しかし、多くの人が感じる「肌の透明感がなく、暗く見える」「血色が悪く見える」「疲れて見える」といった感覚を表現するには、非常に便利な言葉だとは思います。では、この「くすみ」という感覚は、具体的にどのような皮膚の変化を指しているのか、論文ベースで調べてみました。

1. 乾燥と水分不足

肌の水分が不足していると、表面の角質層が乱れ、光が均一に反射されなくなります。これにより、肌の輝き(radiance)が失われ、全体的にdull(くすんだ)印象を与えるようです。実際、健康な肌の輝きや全体的な見た目の美しさを増すためには、十分な水分補給が極めて重要であることが、多くの研究で指摘されています[Rho NK et al., 2024]。皮膚のバリア機能が低下したり、加齢によって肌の水分含有量が減少したりすることも、この乾燥によるくすみを悪化させる要因となります[Bianchini JM et al., 2019]。

2. 色素沈着の増加

肌の色素、特にメラニンの量や分布が不均一であると、肌全体が暗く見えたり、にごった印象になったりします。これには、皆さんがよくご存じのシミ(老人性色素斑など)、肝斑(かんぱん)、そばかす(雀卵斑)、そして日本人に比較的多い後天性真皮メラノサイトーシス(Acquired dermal melanocytosis; ADM)などが含まれます。また、ニキビ跡の色素沈着や、摩擦による炎症後色素沈着なども、くすみの一因として考えて良いかと思います。これらは局所的なものと思われがちですが、広範囲にわたって薄く散らばっていると、肌全体のトーンを暗く見せてしまうものでしょう。

3. 角質肥厚と肌のキメの乱れ

皮膚の新陳代謝(ターンオーバー)が滞ると、古い角質が肌表面に蓄積して厚くなります。これによって肌表面がゴワつき、光の反射が乱れるため、透明感が失われて灰色っぽく見えることがあります。また、肌のキメが乱れていると、表面が滑らかでなくなり、光が均一に拡散しないため、やはり輝きが失われてしまいます。

4. 血行不良

肌の血行が悪くなると、肌に十分な酸素や栄養が行き渡らず、本来の健康的な血色を失って青白く見えたり、土気色に見えたりすることがあります。特に目の下のクマなどは、血行不良が原因であると言われることがあります。

5. 肌の弾力性の低下

加齢は、皮膚の構造そのものを弱らせ、くすみ、乾燥、そして弾力性の低下という形で現れます[Rho NK et al., 2024]。肌のハリや弾力が失われることで、たるみが生じ、肌表面の凹凸が目立つようになると、影ができやすくなり、これもいわゆる「くすみ」として認識されることがあります。

このように、「くすみ」と一言で言っても、言葉の意味が曖昧であるために「様々な要素が複雑に絡み合った結果生じた、肌の色調の乱れ・トーンの暗さ」であるがお分かりいただけると思います。近年では、ソーシャルメディアやオンライン会議の普及により、自分の顔をクローズアップで見る機会が増え、「完璧で輝く肌」への注目がさらに高まっているという報告もあります[Martschin C et al., 2025]。だからこそ、皆さんが感じる「くすみ」という漠然とした悩みに、少しでもアドバイスができるよう、このたび私なりに調査しました。

「くすみ」の原因が多岐にわたるということは、その改善策も一つではなく、原因に応じた多角的なアプローチが必要になるということです。

まず、肌の水分補給(=保湿)は非常に大切です。ヒアルロン酸は、真皮の細胞外マトリックスに豊富に存在する成分で、その体積の最大1000倍もの水を結合する能力を持っています。真皮に十分なヒアルロン酸レベルがあることは、肌のハリや小じわの軽減にも繋がります。日々のスキンケアでは、セラミドやNMF(天然保湿因子)などを補う高保湿の化粧水や乳液、クリームを適切に使うことが基本となります。保湿剤の使用が肌に深い水分補給をもたらし、輝きや質感の臨床的改善につながるという研究もあります[Bianchini JM et al., 2019]。

さらに、当院では、肌の水分補給と肌質改善を目指して、注入型のスキンブースターも選択肢の一つとしてご提案しています。これは、主にヒアルロン酸などを皮膚の真皮層に直接注入することで、肌の奥から潤いとハリをもたらし、エイジングによるくすみや脱水、弾力性の喪失といった変化に対応する治療です。最小限の侵襲性、安全性、短い回復時間というメリットがあります[Rho NK et al., 2024]。

次に、色素沈着が原因の場合は、その種類に応じた治療が必要になります。老人性色素斑のようなシミであればレーザー治療が非常に効果的ですし、肝斑であれば内服薬や外用薬、ピーリング、レーザートーニングなどを組み合わせた治療が一般的です。ADMなど真皮性の色素沈着には、専用のレーザーが用いられます。これらの治療は、専門知識と経験が不可欠ですから、自己判断せずに必ず皮膚科専門医にご相談ください。

角質肥厚やキメの乱れに対しては、ケミカルピーリングや、レチノールなどの外用薬が有効です。これらは肌のターンオーバーを促し、古い角質を除去して、肌表面を滑らかに整える効果が期待できます。ご自宅での角質ケアも大切ですが、摩擦による刺激は色素沈着を悪化させる可能性もありますので、優しく行うように心がけましょう。

血行不良については、日々の生活習慣が大きく影響します。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は、全身の血行促進に繋がります。また、喫煙は血行を悪化させる大きな要因ですので、お控えいただくのが望ましいでしょう。

そして忘れてはならないのが、肌の質を総合的に評価することの重要性です[Martschin C et al., 2025]。シミだけ、乾燥だけ、というように単一の原因に囚われるのではなく、患者さんの肌全体の状態を多角的に診て、最適な治療計画を立てることが大切なのです。

「くすみ」という漠然とした悩みでも、皮膚科専門医にご相談いただければ、その正体を突き止め、多方面からのアプローチで改善へと導くことができるはずです。

まとめ

  1. 「くすみ」という言葉は皮膚科学には明確な定義はありませんが、多くの方が感じる肌の透明感のなさや、暗い印象を指す、複合的な皮膚の状態を表すものです。
  2. 「くすみ」の原因は、乾燥、色素沈着、角質肥厚、血行不良、肌の弾力性低下など、多岐にわたります。これらの要因が単独ではなく、いくつも絡み合っていることがほとんどであると考えられます。
  3. 肌の水分補給を促す日々の保湿ケアや、ヒアルロン酸などを利用したスキンブースター治療、原因に応じたレーザー治療や内服・外用薬など、専門的なアプローチで「くすみ」は改善が期待できます。

1. 「くすみ」という言葉は皮膚科学には明確な定義はありませんが、多くの方が感じる肌の透明感のなさや、暗い印象を指す、複合的な皮膚の状態を表すものです。
2. 「くすみ」の原因は、乾燥、色素沈着、角質肥厚、血行不良、肌の弾力性低下など、多岐にわたります。これらの要因が単独ではなく、いくつも絡み合っていることがほとんどであると考えられます。
3. 肌の水分補給を促す日々の保湿ケアや、ヒアルロン酸などを利用したスキンブースター治療、原因に応じたレーザー治療や内服・外用薬など、専門的なアプローチで「くすみ」は改善が期待できます。

美しさとは、健康な皮膚の上にこそ輝くものです。私は一時的な解決策だけを提示するのではなく、患者さんお一人おひとりの肌の未来を見据え、その方にとって最良で、かつ持続性のある治療を提供したいと願っています。

参考文献(一部)
  1. Rho NK, Kim HS, Kim SY et al. "Injectable "Skin Boosters" in Aging Skin Rejuvenation: A Current Overview." Archives of plastic surgery. 2024. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39544509/
  2. Martschin C, Bahhady R, Li J et al. "Development and Validation of a Novel Holistic Skin Quality Assessment Scale." Journal of cosmetic dermatology. 2025. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39382191/
  3. Bianchini JM, Zhang Q, Hanna G et al. "A unique gel matrix moisturizer delivers deep hydration resulting in significant clinical improvement in radiance and texture." Clinical, cosmetic and investigational dermatology. 2019. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31114